香炉庵では富士珈琲機械製の通称「ブタ釜」と呼ばれる8ポンドのパンチングドラムを使用しています。すでに製造終了している全手動の釜です。釜に付けた煙突を通じて煙はそのまま外へ出されますが煙突の太さや長さにより排気の強さも変わりそれが豆の味にも影響します。香炉庵では豆の芯に旨味を残しながら見た目も美しい焼き上がりとなるよう煙突が設置されています。

直火式バーナーが釜の中心に一本あり、筒状の網のドラムが回転するといういたって単純な構造ですが、直接バーナーの火が豆に当たり香りや生豆(なままめ)本来の個性をより強く表現できるという点が特徴です。電気式やガス式の全自動と異なりすべてが手動のため、焼き上がりは焼き手の技量に大きく左右されます。裏を返せばこれほど焙煎し甲斐がある釜は希少です。

こだわりの焙煎

焙煎は自分の五感(嗅覚、触覚、視覚、聴覚、味覚)を使います。焙煎から焼きあがった豆の選別まで、店主は目、鼻、耳、手、舌をフルに稼働させています。

旨味を豆の中に閉じ込めつつ豆の外側に焼き色を付けていきます。焼き色はほどほどについていても芯がスカスカなら個性、香りは弱くなります。材料豆は農作物なので、そのロットや収穫年などにより品質は変化しますが香炉庵では常に味を安定させるため釜を調整していますがこれは手動アナログ式にしかできません。

店主は自家焙煎珈琲の『薫珈琲店』という店で、天井から鎖で吊り下げられた手網で、原始的な珍しい焙煎を経験しています。大きい網を前後左右に振るという大変体力のいる作業でしたが、子供の頃に囲炉裏でおやつ代わりに「あられ」を煎っていたので網振りはすぐに馴染み、次第に豆の水分の抜け具合・ハゼる時の匂い・ハゼ具合い・焙煎した時の火の関係も重要だと思うようになりました。金網を改良するために自ら作成した図面で金網店に特注したりするうちに焙煎にのめり込んでいきました。

以前の東京では都市ガスは5,500Kカロリーで、店主の実家がある新潟の天然ガス11,000Kカロリー(現在は東京も11,000Kカロリー)と異なるものだったため、上京して間もない頃住んだアパートでガスのカロリーが異なると部屋の暖かさが全然違うという経験をしました。ある時、店の都市ガスメーターの交換工事が行なわれたことで火の強さが急激に変化してしまい焙煎に支障が生じた苦い経験から、店主は強くて安定した火力を求めてプロパンガスを使用するようになりました。

ハンドピックについて

農作物である生豆は現物を目で見てみないとその本当の状態はわかりません。問屋やネット上からの情報を参考に仕入れをしていますが、欠陥豆(カビや虫食い豆・貝殻豆・赤く発酵した豆・やきむら豆や石など)が混ざっていることは当たり前です。これを焙煎後に手で取り除く作業が選別、ハンドピックです。

豆の銘柄やロットによって欠陥豆の混入割合は異なりますが、焙煎すると豆の水分が飛ぶため目減りします。その後の選別までするとそこでまた減ります。

一例を挙げますと香炉庵での一番大変な選別はモカなのですがロットによっては仕入れ時より三割近く目方が減ってしまうこともある豆です。それでも一杯分のコーヒー豆の中に一粒でも欠陥豆が混ざっていたら味が変わってしまうかもしれないという店主の考えで、ハンドピックは欠かせない作業です。

お好みの珈琲を​

「まずはお客様がご興味をお持ちになった珈琲をお試しください。その中からご自身に適した珈琲をお選びいただければと思います。」

浅煎りで酸味がある珈琲や、深煎りで苦味のある珈琲とお好みはあります。
香炉庵の珈琲はまずはストレートで、砂糖もミルクも加えないで飲んでみてください。スーっと口に広がる味わい深い珈琲に驚きや発見があります。珈琲の美味しさを実感していただけると思います。

少し気分を変えて粉の量を増やしたり、砂糖やミルクを加え喫したり、深煎りならカプチーノやカフェ・ラテ、カフェ・オ・レにしたりと、浅煎りから深煎りまで幅広いバリエーションで、ご家庭でのひと時、ご友人とのお菓子を囲んだ楽しいお時間をお過ごしいただけましたら幸いです。

時々、香炉庵の珈琲はパンチがあり、珈琲に酔う(ふわっと感じる)こともあります。個人差はあると思いますが、毎日欠かさず飲んでいてもその日の体調で重く感じたり、特に美味しく感じたりすることもあります。なにか感じたら、少し薄めたり砂糖やミルクを加えたりしてお口に合った飲み方で調整してください。

香炉庵の場所